LOGINフェンリルを倒した後、俺たちは駆けつけた兵士たちによってあるお屋敷に保護された。
このお屋敷の上に立っている旗や、兵士たちが身に着けているマントの紋章を見れば、ここがどこだかわかる。ここは敵国だ。
正確には【神星シュタリア帝国】、俺たちの住む【モルドルーデン王国】とは長くにらみ合いを続けている国になる。
その国のお偉いさんのお屋敷へ、どうして俺たちが丁重に保護されたかというと……。 「まずは救援に応じて下さり感謝する。ラウントリー辺境伯」フィロメニアのおかげだった。
これを政治的手腕といえばいいのか。それとも悪役令嬢的暗躍といえばいいのか。正直迷う。どうやらフィロメニアはこんな繋がりをかねてから作っていたらしい。
豪奢な作りの応接間で、テーブルを挟んだソファには男装の美女が座っていた。
元はボリュームのありそうな赤髪を後ろでひとつにまとめ、化粧っけはないがはっきりとした端麗な顔立ちをしている。 着ている服の肩幅や腕回りは見ただけでも男性用のものとわかるのだが、着崩れている様子はない。それは彼女自身の恵まれた体格と鍛え上げられた肉体の証なんだろう。この人は戦士なんだろうな。
「国境沿いの森の中で彷徨う哀れな娘らを放っておくことはできないたちでね。まぁ、魔装兵一騎と兵士二名を失うとは思わなかったが。そうでしょう。シスター・アイナ」 「ええ。しかし、この縁は双方の国にとって良い結果をもたらすものだと思っていますよ」ラウントリー辺境伯の隣に座る女性が、にこやかに微笑む。
こっちは白を基調とした修道服を着た白い髪、白い瞳を持つ小柄な女性だった。この人は人間じゃない。
その体の全てが雪のように白いというのは、【
「兵らが犠牲になったのは私の責任だ。辺境伯。神殿のやり方を甘く見ていた」
そんな二人を前に物怖じしない声音で、しかし、頭を垂れてフィロメニアは謝罪した。
「違うぞ。どちらも違う。我が軍の損耗は指揮官である私の責任だ。それに君は可能性が低いとしても、奴らが過激な方法を取ってくると予想していた。君は愚かだが馬鹿ではない。だから、私を頼ったんだ。どうだね?」
「否定はしない。だが同時に、この結果は予想できなかった。……誰にも」そう言ってフィロメニアが後ろに立つ俺へ振り返る。
その場の視線が全て俺へと集まって、思わず声にならない声を出してしまった。 「んぇ……?」そんな俺が面白かったのか、「ふふっ」とシスターに笑われる。
急に関心を向けないでほしい。主の小難しい話は基本、シャットアウトするのが俺流の処世術なんだから。「同感だ。とても信じられないが、報告とも矛盾はない。なによりこいつがその証拠というのが、中々そそられるじゃあないか……!」
辺境伯が取り出したのは布に巻かれた一本の牙だった。
俺はそれに見覚えがある。「世にも珍しい、形を保ったままの霊獣フェンリルの牙だ。美しい。実際の獣の牙はこんなに綺麗じゃあない。肉を食らわず、魔力で体を維持する霊獣だからこその白さだ」
俺がその辺に投げ捨てたものを回収したんだろう。
牙を手に取って眺める辺境伯の言葉は芸術品を論評するかのようだったが、その目は険しいものだった。 まるでおぞましいものを見るようなその視線が、牙越しに俺を見たような気がして、咄嗟に顔を背ける。「では、お話して頂けますね? フィロメニア様」
「ああ」シスターに言われ、フィロメニアはわずかに姿勢を崩した。
助けてもらった以上は、説明する義理はある。 俺はこの人たちをどれくらい信用していいのかは知らないけれど、ある程度は説明する義理があるんだろう。「君も座りたまえ」
辺境伯が俺に向けて声をかけてきた。
けれど使用人の身分で彼女たちと同じ席に座ることはできない。俺はこの五年間ですっかりメイドとしての立ち振る舞いが身についてしまっていた。
ここは丁重に断ろう。 俺はそのために頭を下げようとして――しかし、辺境伯の鋭い視線が飛んでくるのがわかった。 「フェンリルを殺せる君に立っていられると落ち着かないと言っているんだ。それに君の口からも話を聞きたいな」なるほど。そう言われれば確かにそうかも……。
この人は根っからの戦士だなぁ、と俺は自分の母親と似た部分を感じつつ、渋々とソファに腰かけるのだった。◇ ◇ ◇
そこからはフィロメニアが事の顛末を辺境伯たちに話した。霊獣召喚の儀式で俺が霊獣になってしまったこと。
その結果を見て、神殿の神官たちが俺を連れていこうとしたこと。 フィロメニアはそれが許せず、魔法を使い、馬を奪って神殿から逃げ出し、ここへ向かったこと。俺の記憶はセファーの手を取ったところで途切れているが、その間にフィロメニアはたった一人で頑張っていたらしい。
メイドとしては不甲斐ないが、純粋に俺を助けてくれたことが嬉しかった。「以前より君から伝えられていたように、神殿というのは相当胡散臭い組織のようだね」
「ああ。しかも侯爵家が後ろ盾になっているのが厄介だ」 辺境伯の言葉に、フィロメニアは深く頷く。神殿とは王国で言うと国教の総本山ともいうべき組織だ。
この世界では属性を表す四柱の神を崇めている。 それは王国も帝国も一緒なのだけれど、なぜか宗派の違いのような壁が存在していた。目の前にシスターという役職の女性がいるのもその違いによるものだ。
「それで、君らはこれからどうしたい? 私とて屋敷に招いた客人を無下に扱うことはない。できる限りの力になるつもりだ」辺境伯はここからが本題だとでもいうように、前のめりに座り直す。
それは俺も大いに気になる話だ。もしフィロメニアが学園へ通わなかったとして、その時点で彼女の死は回避できるのだろうか。
それならばそれが一番良い選択肢と言えるのだが、そうでなかった場合は最悪とも言える。なぜなら、俺は乙女ゲーの舞台となる学園内での未来しか知らない。
せっかく転生して持ち込めた知識を生かすことができないのだ。 俺は平静を装いながらも頭の中では右往左往していた。 だって、乙女ゲーの物語が始まる前に、自分が霊獣になるなんて考えてもいなかったんだから。学園でどうすべきかは色々と考えていたつもりだが、この場合はどう動けばいいのか全く見当がつかない。
そんな中、隣に座るフィロメニアが静かに口を開いた。 「王国に戻る。私は学園に通わねばならない」その言葉に辺境伯が片眉を上げる。
「学園というのは命をかけてまで通うほど大事な場所かね?」 「いいや。だが学園内は中立だ。王都にあり、敵対派閥の貴族の子らも通う。そして、神殿の新たな動きは学園にあると調べはついている。ならばここは命惜しさに避けるよりも、渦中にいるべき絶好の機会だ」 どうやらフィロメニアは政略的な利点と神殿に対する懸念を理由に学園へ通うつもりらしい。 たしか、乙女ゲーの物語にも神殿は深く関わっていた。 なにせヒロインの魔法の才能を見出し、学園へ通う許可を出したのは神殿なのだから。 辺境伯は口元に手を当てて考えてから、間を置いて口を開く。 「……賭けだな。私なら王国と君の実家へ書簡を送り、神殿に殺されかけたと報告する。こんな証拠もあるわけなのだからね」彼女は指先でフェンリルの牙を叩いた。
だが、間髪入れずにフィロメニアが反論する。 「神殿に加担する貴族は多い。言い訳などどうにでもできる。なにより私たちは――クラエスを殺した。戦端が開かれていることになる」 「後手に回るかね。仕掛けてきたのは神殿の方だろうに」 「だとしても、王国内で神殿を支持する敵対派閥と内乱をしている余裕はない」そんな王国の弱みを見せるようなことを言っていいのだろうか、と思ったが、フィロメニアの顔は飄々としたものだ。
「仮にその際、帝国がラウィーリア公爵家を主軸とする側につくとしても、ですか?」そう発言したのは、シスター・アイナだった。
口を開く前に彼女の白い瞳孔が光ったように見えたのは気のせいだろうか。 「シスター。口約束をアテにして戦争を始めることも問題だが、もっと大きな問題がある」敵国からの密約の提案に、フィロメニアは声を低くする。
「戦争は知略を尽くし、政略を巡らせ、対話の果てに起こってしまうものだ。我ら貴族がその先頭に立とうとも、戦火に巻き込まれる民の犠牲はゼロにはならない」 ……これが齢十五の少女から発せられる言葉なのだから驚きだなぁ、と思う。 けれど、これこそがフィロメニアだ。 俺が十年間、見続けた悪役令嬢の考えなのだ。 どうだ。俺の主はすごいだろう、と自分のことでもないのにドヤ顔したくなる。 辺境伯を見るとソファに背中をもたれて、ため息をつくところだった。 「……王国にも良い教育を施された若者がいるものだ。いいだろう。話を合わせてやろうじゃあないか」辺境伯が立ち上がる。シスターも目を閉じて頷いたところを見ると、話はついたのだろう。
「フェンリルを殺したのはあくまで私の軍。そして、君たちはただ森の中で彷徨っていたところを保護され、丁重に王国の実家へ送還される。それでいいかね?」 「対価は?」 「こいつで十分だろう」 フィロメニアの問いに、辺境伯はテーブルに置かれた牙を見るのだった。真っ暗闇な会場に、ふつふつと緑と赤の光が湧いてくる。 観衆の声は様々だ。 その始まりを待ちわびる声。初めて使うサイリウムに困惑する声。そして、舞台に立つ二つの人影に歓声を抑えきれない声。 そして、魔法で拡大された楽器の音が始まる。 同時に、スポットライトに照らされたのは――。《共に在る覚悟を問われれば答えは一つ。【汝、終焉において我が名を呼ぶのなら】 運命ですら捻じ曲げる意志を》 ――俺とフィロメニアだった。 この一ヵ月、必死に練習したステップを踏み、歌声に会場が湧く。 前に見た舞台のように、厳かな雰囲気などではない。 観衆は皆立った状態で、俺とフィロメニアが腕を上げて手を叩いてみせると、同じように前奏に合わせて手拍子が鳴った。 帝国で流行っているらしいポップな曲調だ。《決められた未来は訪れるのを今かと待っている。けれど抗うために星へと願う》 舞台は専用に作った特注のもの。 中央に円状の舞台があるのは変わらないが、それに至る橋が舞台袖から続いている。 俺とフィロメニアはその橋の真ん中で互いを意識しつつ歌う。《【それが朝であろうとも、常に星はそこにある】 物語はすでに始まっている》《【それが昼であるからこそ、常に星は見つけられることを待ちわびている】 流されそうになる運命の放流》《【それが夜であるならば、常に星は見つめてくださっている】 抗う力を腕に込め》 星典を引用した古代口語を含んだ歌詞は、この王国でも新鋭の音楽家に作らせたものだ。 発音が難しい部分があるが、俺の【模倣】は完全にそれをトレースすることを可能にしている。 ちょっとズルかもしれないけれど。 《いま突き出す拳を星空へ。明日の世界へ》 そしてサビへ向かって曲が盛り上がっていく。 観衆の熱が、ラウィーリア領製のサイリウムの動きとなって伝わってくる。 俺たちは中央の舞台へたどり着き
決闘から少し経ったある日、フィロメニアと俺は学園長に呼び出しを食らっていた。 俺は絶対に怒られるとビクビクしていたけれど、フィロメニアは涼しい顔で部屋に入る。 そこでは学園長が温和そうな笑みをたたえていて、とりあえず扉の横へと控えるように立った。 「久しぶりに良いものをみせてもらった。フィロメニア君」 開口一番そう言われ、フィロメニアはゆっくりと頭を垂れる。 「騒ぎを起こして申し訳ありません。学園長殿」 慌てて俺もお辞儀をするが、学園長は目を丸くして頭を上げるように言う。 「いや、すまない。皮肉ではないのだ。学園という揺りかごの中に長くいると、つい刺激に乏しくなる。正直に言って、愉快痛快といったところだった」 その言葉に部屋の雰囲気を弛めるように、学園長は椅子を回して体を斜めに向けた。 俺たちは顔を合わせる。 そりゃ俺たちにとってはまさに愉快痛快だったけれど、学園長がそう言うとは思っていなかったのだ。 フィロメニアは思うところがあるのか、眉をひそめる。 「失礼を承知で聞きますが、学園長殿はマリエッタの姦計に気づいていたと?」「彼女が好き勝手をしていたのは当然、把握していたとも」「ではなぜ止めなかったのです」 背を持たれて手を組む学園長に、フィロメニアは詰め寄った。 だが学園長は意に介していないように微笑みを崩さず応じる。「それがこの国の利となるか害となるか、見極めるに時間が必要だと判断した」「それだけですか? 遅きに失すれば殿下までもが神殿の思惑に取り込まれていました」「不満かね?」 俺にはまだその「思惑」とやらが理解できていないけれど、フィロメニアには面白くない状況なのはわかる。 言われた通り、不満そうな顔でフィロメニアが黙っていると学園長は続けた。 「……学園の成り立ちもそう単純なものではない。それにマリエッタ教諭の行動は問題だが、シャノン・コンフォルト
「ウィナちゃんッ!」「ウィナフレッド!」 その魔法の閃光が炸裂する瞬間、思わずクレイヴとシャノンは叫んでいた。 三人と三体の同時攻撃。 そんなものをまともに食らえば、いくらウィナとはいえ無事ではないだろう。 衝撃に舞う爆煙が晴れたとき、そこに倒れ伏せる少女の姿をクレイヴは幻視する。 だが――。 その煙の中から現れたのは、三対の巨大な光翼だった。 羽根のない、透き通るガラスのようなそれはゆっくりと羽ばたくと、視界が晴れる。 ――そこには二人の少女がいた。 片方の金髪の少女は目を瞑り、強い意志を感じさせる表情で、魔法の炸裂の前からも一歩も動かず。 そしてもう片方の緑の髪の少女は、後ろに向けて剣と腕輪を構え、悠然とそこに立っていた。 どちらも、キズ一つない。 相対する敵に出来うる最大の攻撃を受け止めたのだ。「ウィナちゃん……!」 隣でシャノンが安堵の声と共に崩れ落ちる。 だがクレイヴは、目の前の光景に畏怖を感じていた。 ――なんという力だ。 相手は実戦の経験の少ない学生とはいえ、その血脈に証明された才能ある家の者たちだ。 彼らが束になってもウィナを倒すどころか、一撃も入れられないとは。 見ればセルジュは頭を抱えてその光景を疑い、ファブリスは膝をついて呆然としていた。 ジルベールだけが、震える声でウィナに叫ぶ。 「て、てめぇは……!てめぇは何モンなんだ!? なんなんだてめぇはぁぁ!?」 問われたウィナは振り返り、ニヤリと笑った。 「公爵家のメイドだ。以後、お見知り置いとけ」 瞬間、彼女の左腕がわずかに光を放つ。 ウィナは大きく息を吸うと、それに伴って周囲の魔力までもが吸い込まれるように動いた。 そして、彼女の全力の咆哮が空気を震わせた。 「うああああぁ
「来たのか」 そう言われて、俺はこめかみを掻く。 偉そうなことを言っておきながら遅刻なんて、フィロメニアを失望させるところだった。 「ごめん、寝坊した。ちょっと道も混んでてさぁ。苦労したよ」 適当な言い訳を思いついたまま口に出すと、視界の横に目を見開いたマリエッタが見える。 だがフィロメニアはそんなことには関心も示さない。 代わりに、どこか懇願するような顔で聞いてきた。「私といれば、これからも同じようなことが……いや、これ以上の苦労が待っているぞ。それでも――」「――だからこそ」 そんな質問、俺の答えなんてわかっているだろうに。 けれど、思いは言葉にすることも大事なのだ。 名を呼べる距離にいても、手を握れる距離にいても、それは変わらない。 だから、俺はこの先も続くこの世界に対して言う。 「俺はそばにいるよ。フィロメニア」 返ってきたのは、零れるような笑顔と、名を呼ぶ声だった。 「ならば来い――ウィナ!」「あいよ!」 勢いよく答えると、腕輪が金属音を立てて変形する。そして、俺の体は風のような光に包まれた。 一歩ずつ階段を下る度、体に力が漲ってくる。 霊獣の姿となった俺を見て、決闘場はどよめきに包まれた。 俺は階段を下った先にいた知った顔へ笑いかける。 シャノンは姿が変化した俺に戸惑いながらも、涙でぐちゃぐちゃになった顔で近寄ってきた。 「ウィナ……ちゃん? 大丈夫なの……?」「シャノンこそめっちゃ目腫れてるけど大丈夫? ほい、ハンカチ。鼻水はかまな――かむなっつの!」 ズビーッと盛大に鼻水を噛んだシャノンに抗議すると、「ご、ごめん、洗って返すから……!」とか言っている。 当たり前だろ! 呆れているとそ
Detoxification Progress Status…… 98%…… 99%…… ……Completed Checking All System……All Green ……Sentitive Mental Reboot ……Ready …… ………… ……………… 気がつくと、そこは白かった。 眠りとは違う、なだらかな意識の浮上ではなく、スイッチのオフオンに近い感覚だ。 夢……? 『うん。だいたい解毒は完了したね』『……ん!? なんだここ!?』 セファーの声がして、俺は夢の中ではないことを理解して仰天する。 けれども現実でもないことを同時に理解していた。 視界はあるが、体がないのだ。俺の。 意識だけが真っ白な空間に漂っている。 すると、目の前にセファーが現れた。 いつもの妖精のような手のひらサイズじゃない。 普通の人間サイズのように見える。 色のない背景も合わさって遠近感覚が狂っているように感じて、俺はわずかな眩暈を覚えた。 『半覚醒状態というのかな。この状態で話す方が君への情報伝達に時間を取られないからねぇ』『なるほど、わからん』『じゃあ状況を説明しよう。君は今、学園の医務室で寝ている。看病についてくれているのは王太子のメイドだねぇ』 相変わらず人の話を聞かない相棒だ。 仕方なく俺は話の続きを催促する。 『決闘
「ウィナ……! 命令だ下がれ!」「おいおい。ここは使用人出入り禁止だぜ」 肩を掴もうとするフィロメニアの手を避け、ジルベールの睨みをスルーして、俺は観衆のド真ん中に立った。 俺がそこで深く一礼すると、それまでの喧騒が困惑の静けさに変わる。「僭越ながら皆様にお伝えしたいことがございます」 公爵家のメイドたるもの凛々しくあれ。 メイド長の言葉を胸に、喉を震わせると俺の声はロビーによく響いた。 こんな場所で声を上げれば、いくら俺でも心臓の鼓動が高鳴るのを抑えきれないだろう。 けれど、なぜか今は酷く落ち着いている。 「なんだなんだ?」「あれ、フィロメニア様の使用人でしょ?」 そうだよ。 俺は悪役令嬢の使用人。 場合によってはここにいる全員の敵になるかもしれない存在を主人にしているんだ。 「私、ウィナフレッド・ディカーニカは――我が主、フィロメニア・ノア・ラウィーリア様の霊獣にございます。故に代理人については不要。この決闘、皆様のお目を楽しませるものになるとお約束致しましょう」 周囲がしんと静まり返る。 そして、笑い声がそこかしこで上がった。「ははは! なにいってんだよあのメイド!」「使用人がでしゃばってくんなっつの」「フィロメニア様をかばってんじゃないの?」「じゃあ、あの小さい子が出てきて戦うの? いやいや、平民が魔法食らったら死んじゃうじゃない!」 反応は様々だ。 それでいい。その方が面白くなるだろう。 そんなことを考えていたら、フィロメニアに両手で掴みかかられた。 「ウィナ、お前はッ!」「なに? やり方が雑だからこうなってんだけど、なんか文句あるんですか? お嬢様?」 フィロメニアが言葉を詰まらせる。 彼女は腕力を強化しているのか、襟首を掴まれた俺は足が浮いてしまっていた。 正直